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ローマ人の物語 (6) ― 勝者の混迷(上)新潮文庫
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| ジャンル: | 歴史,日本史,西洋史,世界史
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重なる問題
地中海の制海権を確保した共和制ローマ。急速に勢力圏が広がるにつれて、逆に国内に問題を抱え込むことになった。そのひとつが富の格差問題である。ローマ人は農耕民族であるため、多くのローマ人は農業を行っている。この小規模農業が立ち行かなくなり、低所得層に落ちる市民が発生してしまったのである。この原因は大きく2つ挙げられる。
一つは領土が拡大したことにより、安価な農作物が輸入されるようになったこと。もう一つは領土拡大に伴い獲得した奴隷により、大規模農業が行われたことである。この貧富の格差拡大は、ローマの戦力低下を招いてしまった。兵役はローマ市民の義務であるため、従軍中の賃金は支払われない。このため、従軍中に残された家族が生活できるだけの資産を持たない市民は、兵役の義務を免除されるのである。
勢力を拡大するほどに混迷の度合いを増していく姿は、いまの日本に重なる部分もあるかもしれない。
それでも改革は進んだ
社会構造が変わって社会に矛盾が生じれば、政治による改革が必要になる。政治による改革には必ず既得権者による反対が伴う。それを乗り越えられるかどうかが、その社会の存亡を決めることもある。
グラックス兄弟による農地法の改革は、実は内容面での反対はそれほど大きくなかった。問題視されたのは、彼らのやり方だった。
正しいことを正しいと信じてやるだけでは改革はできない。大きなことを成し遂げるには、清濁を併せ呑むくらいの程よい器用さ、鈍感さが必要なんだなということを感じた。
そういうことはともかく、ローマ人は、ローマ人同士やこれまでの同盟者たちと多くの血を流した挙句に改革を始めた。すごい民族だなあと思う。
改革者グラックス兄弟の悲劇
宿敵カルタゴを滅亡させ地中海を制覇したローマ。
長い戦いを終え絶頂にみえたその栄華のウラで、貧富格差の拡大や属州の市民権問題など、既得権をめぐる内政面の問題が、じわじわとローマを蝕んでいきます。
本巻では、既得権を守ろうとする元老院階級に立ち向かい改革を進めようとするティベリウス、ガイウスのグラックス兄弟の時代を取り上げます。
約10年をおいて執政官として改革に取り組んだ2人の兄弟は、それぞれ活躍する期間は数年にも満たず悲劇的な死を遂げますが、(当時は毀誉褒貶が激しかったものの)後世からは正当な評価を受ける改革姿勢とローマの発展への貢献により、歴史に名を残します。いつの時代も改革者はその時代には正当な評価を受けにくいのでしょうか。
塩野氏は「無知な大衆はそれが政治目的であっても(権力者の)私利私欲のためと思い込むのが好きな人種」という学者の言葉を引用していますが、主権者たる国民が本当の改革者を見分ける能力を持たねばならないということは現代にも通じる示唆と思います。
塩野氏の文章は、史実を客観的に語るだけなのに、現代社会への示唆や教訓を決して押し付けがましくなく表現していて、歴史物語を楽しませながらも今という時代を考えさせる内容となっています。
なお、本書後半は、時代が下って紀元前89年、内乱を契機として属州にも市民権を与えることになりローマ連合は解体、都市国家連合から真の国家へと変貌することになりますが、まだローマ国内外の「混迷」は続きそうな雰囲気で、物語は下巻へと引き継がれていきます。
勝者の混迷 ピッタリのタイトル
あれだけの戦果を挙げ、怖いものがなくなったかに見えたローマだったが内部にはくすぶる火種が満載だった。紀元前の世界がここまで発達していて組織を機能させる力を持っていたことに前作まで驚いていたが、その同じ国とは思えない蛮行がローマ国内で繰り返される。
そして今までにない内政的な著者の指摘も見逃せない「多くの普通人は仕事をすることによって、自らの尊厳を維持していく。人間が人間らしく生きてために必要な自分に対しての誇りは、福祉では絶対に回復できない。」「同じ権利を持たないものに、同じ義務を求めることは出来ない。同等の義務を負わせたいならば同等の権利を与えねばならない。」「絶望にかられた人々は容易に過激化に走る。そして常に中心にいる人よりも周囲を固める者たちのほうが激しく対応するようになるものである」
確かにその通り。歴史から学ぶことは本当に多い。華やかさに欠ける時代を描ききる手腕は凄い。
塩野の誠実と慧眼のありば
ハンニバルを破り カルタゴを滅ぼしたことで 名実共に地中海の盟主となった ローマ帝国の 混迷を描き出す。
敵に対して団結することが組織の強みであることは 昔も今も変わらない。その敵がカルタゴであった間のローマの団結には目を見張るものがあった。
カルタゴの滅亡と同時に 外部に敵を持たなくなったローマは 内部に敵を探すようになる点を 塩野は書いている。
大国となったローマの各種の改革を目指す政治家が 守旧派に潰されて行く姿は 2000年余後の 現代にも見られる姿とそっくりである。書いている塩野自身が やれやれと首を振っている姿が目に見えるくらいだ。
本書は 幾分地味な内容である。ポエニ戦役に後であるから尚更であろう。但し こういうローマの内政といった 地味な部分をきちんと書き込むところに 塩野の誠実と慧眼がある。実際 歴史とは 大戦争といった 活劇だけでは描き出せないのだ。その点を読んでいてひしひしと感じる。
新潮社
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